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消費生活 1

「振込めサギ」から振込金を取り返す

 「振込めサギ」は、その名称を戴くまでは、「おれおれサギ」と呼ばれていた。以下の事件に対応していた平成17年2月頃に警察庁がこの種手口の犯罪に「振込めサギ」の名称を付けたのである。
 さて、知人から紹介されたA子さんが、株式会社東日本債権管理センターなる者から「電子消費者契約通信未納利用料請求最終通達書」と題するハガキを受取ったのは、平成16年5月23日のことである。そこでA子さん、そんなハガキは、即座にゴミ箱に捨てなければならないところ、どうしたことか、こともあろうに、記載してある連絡先電話番号に電話をしてしまったのである。
 そうなると、相手は、スッポンの如く噛み付いてA子さんを離そうとしない。結局、その話術に巻かれて、ありもしない債務384,000円を相手方口座に振込んだのである。そして、ご丁寧にも「振込んだら、すぐその旨電話するように」と言われた通り電話をした。すると、相手方は、「別途、564,000円も未払いになっているので、すぐ、振込まれたい。」さすが、サギと言うだけのことはある。詐言を用いて、人から財物を交付させるのである。
 しかし、いかにA子さんでも、二度目の振込みが終わった直後、「これは、どう考えてもおかしい。」と気付き、最寄の署へ駆け込んだ。これが幸いした。派出所でなくてよかった。いや、対応してくれた警官を褒めるべきか。
 この警官、総務課に所属していたから、直接の担当ではなかったが、A子さんの話が終わるや否や振込先銀行(都市銀行市川支店=千葉県)に電話をして、払い出しを止めさせたのである。
 その後、A子さんは、口座に残高が残存していることを折を見ては、その銀行に確認していたが、銀行は返してくれそうにはない。そこで、口座名義人を被告にして訴えを提起することになるのであるが、ここに大きな問題が横たわっている。当時の裁判例では、口座名義人がカタカナの名前で、住所も分らなければ、被告が特定できないため、訴えは門前払いとなっていたのである。銀行に本人確認法に基づいて確認してある住所と漢字の名前を教えて欲しいといっても拒否される。そこで、奥の手を使って、この相手を特定した。そして、奈良簡易裁判所にA子さんは、訴えを提起。するとすかさず、次の関門。それは、被告に送達された訴状が「あて所に尋ねあたりません。」として、奈良簡裁に返送されて来たのである。そうすると「公示送達」しかない。簡裁に公示送達を申請すると「現地確認」と、その「報告書」提出が申し渡された。
 被告の住所地の最寄駅は、京成電鉄の国府台駅である。駅前の交番で尋ねると、うまい具合に道路を挟んで交番と筋向いのマンションとのこと。まず、集合の郵便受けを見る。氏名の表示はなく、室番の郵便受けには、配達された郵便物がある。いずれもあまり価値のあるようなものではなさそうだ。そして、該当の号室に向かう。
やはり、氏名の表示はない。もし、顔を出されて、何用か?といわれたら、何と答えようか、思案しながらも、インターフォンを押す。反応がない。もう一度繰返す。やはり、応答はない。交番にとって返して、市役所への道順を聞く。徒歩でも可能だ。住民票を申請する。ない。担当職員は、申請理由を慮ってか、過去の記録まで確認してくれた。しかし、遡ること5年間、その人物が市川市に住民登録したことはないとのこと。改めて、銀行の口座開設への疑問と憤りが湧く。この顛末を報告書として、奈良簡裁へ提出。そして、A子さんに第1回口頭弁論期日の通知が来る。期日には、もちろん、被告が出廷してくることはない。
従って、第1回の期日で裁判は終結。裁判官も心得たもので、同日に判決を言渡してくれた。しかし、訴状に記載した請求の趣旨のうち、訴訟費用の被告負担、支払済みに至るまで年5分の割合による損害金の支払は、主文からは除かれていた。このことについて、判決当初には奇異に感じたが、その後にその理由を推測することができた。すなわち、振込先口座には、A子さんが二回にわたって振込んだ金額の残高しかなく、判決文に利息や訴訟費用を記載(利息や訴訟費用の裁判をしても)しても、強制執行の方途がないからであろう。そして、その後2週間して判決は確定。次は、その銀行を第三債務者として、口座残高の差押えの手続である。この管轄は、千葉地裁市川支部でしなければならない。債権差押命令申立書と付属の書類を同支部へ郵送する。
すると又しても、現地確認の要請。これに対しては、先に奈良簡裁に提出した報告書を援用、そして、ついに口座残高の差押さえ実現。その後、A子さんは、その銀行の奈良支店で振込んだ金額に相当するお金の支払を受けることができたのである。

連帯債務利率引き直し事件
 この事件のクライアントは、私が定期的に原稿を送っている地元ミニコミ紙の編集長から紹介があったものである。クライアント氏は、電話で打ち合わせたとおり、手元にある関連資料一式を携えていた。しかし、肝心な金銭消費貸借契約書と主債務者の弁済の記録がない。弁済記録はともかくとして、連帯保証人として、名を連ねた金銭消費貸借契約書がないとは。連帯保証とは、そんな軽いものではない。といいたいところをこらえて、クライアント氏の説明を聞く。その債務は、元本が100万円で約役5年前の契約であるとのこと。そして、主債務者が本年(平成20年)6月に自己破産したので、債権者は、自分に残債務の支払を求めてきた。その額が約81万円だという。そして、債権者の催告に応じて2か月分39,000円を連帯保証人として支払った。しかし、今後も払い続けるのがかなわない。なんとかならないか。このクライアント氏、業界仲間で互いに連帯保証の仕合をしており、外にも連帯保証しているもの、してもらっているもの何件かあるとのことで、連帯保証の法的な仕組みはある程度理解している様子。さて、5年前に借金して、現在なお81万円もの元金が存在するということは、いかに高利で借りたものか、はたまた、弁済の滞りがあるのか。いや、弁済の滞りは、考えられない。なぜならば、債権者が、弁済の滞りを看過して債務者の自己破産まで放置するはずはない。むしろ、一回の滞りでも期限の利益喪失条項を適用して、残債務の一括弁済を求めてくるのが、このような債権者の定石というものである。そうであれば、やはり、利息制限法違反の高利か。
 クライアント氏が肝心な書類を持っていないので、債権者側から提示を受けなければならない。
 そこで一計を案じる。
 すなわち、利息制限法などを持出すと、債権者側は、硬化して事実を明かさないおそれがある。
 内容証明郵便で送付した内容のさわりは、こうである。「・・・・、つきましては、甲(主債務者)の貴社との金銭消費貸借元本100万円がどのように弁済され、当方が負担すべき残額がいくらあり、それをどのように弁済すればよいのか、甲の代理人から送付されてきた債権調査票への記入の必要もあり、また、一括弁済も検討したいので、本書送達後5日以内に文書でご回答下さるようご照会申し上げます。なお、その際、甲と貴社との契約書の写しを併せて同封いただきたくお願いを申し上げます。」
 すなわち、一括弁済の意思があると見せかけて、主債務者の弁済記録の詳細を入手しようとしたのである。こうして、指定の期日内に債権者から送られてきたのは、「金銭消費貸借・手形割引等継続取引並びに限度付根保証承諾書兼金銭消費貸借契約書(債務弁済公正証書作成嘱託委任状)」という名の契約書(勿論、ここには、クライアント氏の連帯保証人としての実印が押印してある。)と顧客台帳という名の弁済の記録である。平成14年11月14日100万円貸し出し、平成15年1月6日初回弁済39,750円、以下、平成20年5月27日の最終弁済までキチンと約定どおりの弁済がなされている。そこで、とりあえず、弁済初年度12ヶ月の弁済金合計額を計算すると、290,250円となる。利息制限法では、100万円以上の元金の制限利率は、年15パーセントである。こうして、利息制限法所定の最高利率で利息を引きなおして、「利率引き直し計算書」を作成。すると、主債務者甲自身でさえ、既に88,900円の過払いをしている結果に。当然ながら、連帯債務者のクライアント氏が弁済した39,000円は払う必要のない金員である。
 債権者への内容証明郵便第二段「「主債務者甲の御社への弁済の状況を法定利率に引き直し計算すれば、甲自身、平成20年5月の弁済時点で既に御社に対して、88,900円の過払いを生じております。(利率引き直し計算書は、別送)※=末尾参照 従いまして、その後当方に請求されて支払った2回分計39,000円は非債弁済にあたりますので、この額を当方宛返還いただきたく、ここにご通知申し上げます。とりあえず、本書送達後5日以内に文書でご連絡下さるよう申し添えます。」
 しかし、期限が過ぎても債権者からは、文書はもとより、口頭でも何の連絡もない。クライアント氏が電話で債権者会社へ申入れするも「担当者がいない。」というような対応。これを何回か繰返す。
 私は、81万余の弁済を逃れることのできたクライアント氏の心情は、支払った39,000円くらいは、諦めるのではないかとの思いで水を向けてみた。しかし、当のクライアント氏から返ってきた言葉、それは、「39,000円といえども、道に落ちているわけではない。」なるほど。
 ならば、三たび内容証明郵便で、振込口座を明記して、39,000円の返還振込みを催告してはどうか、それで返還されなかったら、小額訴訟を提起されたらよい、旨伝えた。それから数日後、クライアント氏は、裁判所へ行く時間がもったいない。81万円を逃れられたのだから、39,000円は、諦めるとの連絡をしてきた。こうして、連帯債務利率引き直し事件は終了した。
※内容証明郵便には、書状以外にいかなるものも同封することができない。